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藤原美智子が語る、 藤原美智子という人のこれまでとこれから <後編>

藤原美智子が語る、 藤原美智子という人のこれまでとこれから <後編>

 

このコラムでは、藤原美智子という人を作りあげたさまざまなエッセンスにフォーカス。後編では、美智子さんの唯一無二とも言える「生き方のヒント」や「哲学」について伺っていきます。

 自分らしさは変わっていくのが当たり前 

──これまで、ヘア&メイクアップアーティストとして活躍する傍らで、かなり多くのご著書も執筆され、ブランドも運営され……とご多忙を極めていらしたと思います。

自分でもよくやったなと思います(笑)。一年のうち、お休みは元旦の午前中だけ、という日々を過ごしてきました。

 

──あまりにも忙しい毎日だと、日々のタスクをこなすことで精一杯になりませんか?どんどん新しいことをご提案されたり、考え出されたり。そのバイタリティはどのように生まれるのかなと。

私は飽きっぽいところがあるから、創意工夫は人一倍してきたかも(笑)。自分に今一番大切なことは何だろうとか、どうやったら今の自分の気持ちが幸せに向くだろうとか、そういう自問自答は常にしていましたね。たとえば、あるとき、12回講演をしたのだけど、1回目と2回目の間が少し空いていたのね。時間があったからメイクをなおしているうちに、ついどんどん足していってしまったのだけど、そのメイクの濃さが今の私に合ってる!と発見しことがあるの。

 

──自分の変化に敏感になるということですね。 

「自分らしさは一生同じではない」とよく言っているの。人生は川の流れと同じで移ろっていくもの。そのときどきにあった自分らしさ、自分らしい美しさ、居心地のよさを見つけていくことが大切だと思うの。「あの日プロにやってもらったメイクが、自分にとっての最高!」なんて何十年も思っていては、変化に気づけない。日々はどんどん変わっていくのが当たり前なんだもの。だから、どんどん変わっていったほうがいいと思うの。

 

「手放す勇気」と「素直さ」

  

──変化が怖いと考えてしまう場合は、どうしたらよいでしょうか。

今の時代、安定を求めてもどうなるかわからないじゃない?変化を恐れながら安定にしがみつくよりは、自分からどんどん変わっていったほうが気持ち良く生きられるんじゃないかと思います。私がヘア&メイクアップアーティストの活動に終止符を打つのも、引退とか、幕引きみたいなものではなくて、また新しいことを始めていこう!という姿勢なんです。大人だってどんどん、思ったほうに変化していっていいのではないかしら。

 

──固執することが悲劇になることもある。 

大昔、台風の日にスキューバダイビングをしたことがあったんだけど(笑)、海の底に潜ったら、それはそれは大荒れで、流されまいと必死に岩にしがみついていたの。それでも流されてしまうのね。その時に、フッと流れに抵抗するのをやめようと思ったの。そして、行きたい方向へ向かって軽く岩を押してみたら何の努力もなく、行きたい方向に行けたの。それが面白くて、ああ、流れに逆らわないほうが楽しいんだということを知りました。

 

──藤原さんは日々のなかで「こうすればいいんだ」というヒントを発見するのがとてもお上手ですよね。 

私の生き方や美意識のヒントは、そういった何気ないところから蓄積されてきたものという気がします。ヘアメイクアップアーティストの私の先生に就いた初日、「藤原さん、オレンジジュースを注いでくださる?」と頼まれて、私はグラスに並々注いでと渡したら「グラスに注ぐのは8分目までのほうがおいしそうに見えるしきれいよ」と。それを聞いて「なるほど!」と目から鱗。そこから、街で見かけるディスプレイや、素敵なお宅のインテリアなどを見て「余白の美しさ」を学んだりしました。

 

──素直な姿勢が、学びを深めてくれるんですね。

素直だと、それだけ伸びるんです。自分の固定概念を覆すような事態があったとき、それを素直に受け入れられる人は伸びます。私はさらに忘れっぽいから、同じことで何度も驚けるし、新鮮な気持ちを持てる部分があるかもしれません(笑)。慣れてしまうと、惰性になったり、人生がつまらなく思ったりするような気がしていて、意図的に忘れるようにしているところがあります。

 

古くならないために、流行とノーブルさのバランスを考える

 

──藤原さんは、これまで手がけてきたもののなかに、今とは違うとか、時代を感じるな、なんてことはありますか? 

さすがに30年前のメイクは、今とまったく眉の流行が違うなとは思うけれど、基本的には「今も通用するな」と思えるものが多いです。というのは、私は昔からずっと、流行が3割、ノーブルが7割というバランスでものづくりをしてきているんですね。この比率だと、時間が経ってから見ても「あの時はこれが流行っていたよね!」とはなりません。

(※ 藤原さんはこの「ノーブル」という言葉をよく使う。この言葉には気品、気高さ、クラシックと言ったようなニュアンスが含まれており、「凛とした品のある美しさ」を表現する言葉なのではないかと筆者は考える。)

 

──ノーブルの比率が高い!

そう。流行の比率が高いと、3年で古さを感じるようになってしまうの。かといってノーブルだけだとクラシックな雰囲気になりすぎてしまう。流れに身を任せながら、何歳になってもやりたいことを思い切りやれる軽やかさを、3割の流行に込めていく。その比率が「いつまでも変わらない本質的な美しさ」を引き出してくれると思っています。

──好きなことをやっていくためには、流れに身を任せることが大事なんですね。

人生いいことばかりじゃないでしょ?でも流れに身を任せていれば、沈んでもいつか浮上する。そうしたら前や上を見て、また好きなことを目指していけばいいだけ。最近は最短距離を目指すことがよしとされるけど、効率に執着しすぎないことも大切。思いもよらない不慮の事態にも、まあ、そういうこともあるか〜って思えたほうが強いと思います。

INTERVIEW & TEXT : AYANA
PHOTOGRAPHY : Yoshihiro Miyagawa

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