大人の学び直しで、人生を深く面白く。

新しいことにトライしたくなる春。最近は、大人の“学び直し”やリスキリングが注目を集めています。知的好奇心旺盛で大学の特任教授としても活躍する藤原美智子が、大人の学び直しの魅力やコツを語ります。

感情や感覚というものを科学的に捉えるのが面白い

――美智子さんは現在、信州大学 社会基盤研究所の特任教授を務められていますが、きっかけは何だったのでしょうか?

数年前、信州大学 社会基盤研究所の先生が私の講演に来てくださったのがきっかけです。その講演では、女性はメイクによって自分の美しさに自信を持つと瞳が輝き出すということを話したのだけれど、以前から、そうしたメイクによる変化を脳波で測定できたら面白いんじゃないかなと考えていたの。先生が私の話に興味を持ってくれて「一緒に研究しませんか?」と特任教授のオファーをいただいたんです。

――教授、かっこいいですね!

いやいや、大学の先生たちの研究に対してアドバイスや意見をするのが仕事で教壇に立つわけではないので、教授ではないです〜(笑)。でも、こうした機会をいただけるのはありがたいですし、すごく刺激を受けます。ストレスに関する研究にオンラインで参加していて、先日は「ストレスを楽しみながら美しく生きる」をテーマに、教授たちとセミナーを開催しました。私たちが日頃、感情や感覚でなんとなく捉えていることを、先生たちは数値やグラフで科学的に研究されていて、「そうだったのか!」と目から鱗で勉強になることばかり。以前から興味を持って読んでいた心理学や哲学、脳科学の専門書もおかげさまで身近に感じるようになりました。

漫画やYoutubeも使いながら、楽しく立体的に学ぶ

――美智子さんは以前から読書家で、難解な専門書もたくさん読まれていますよね。

ヘアメイクアップアーティストとして活動していた30代の頃から、美容は内面と深く繋がってると思っていて、心理学や医学、哲学などにすごく興味があったの。ただ、いくら興味がある分野でも、専門書は難しくて全然ページが進まない(苦笑)。なので、まずは漫画で全体を網羅して、そこから専門書に移行していくというスタイルで学んでいます。専門的な表現に慣れていくと分厚い専門書も自然と読めるようになっていくので、まずは漫画から入るというのは学び直しの第一段階として、とてもおすすめです。

――漫画はとっかかりにすごくいいですよね。種類もいろいろありますし。

それに、今はYoutubeもあって、いろいろな専門家の方が配信してるでしょう? そうした動画を講義として視聴しつつ、漫画や専門書などを教科書として読みつつという感じで、立体的に学べますよね。やる気になれば、いつでも・どこでも学べるので、大人がリスキングするにはすごくいい時代だと思います。Youtubeの講義や漫画で大雑把に把握して、その後、より専門的な本を読むというパターンでいくと、途中で挫折することなく学ぶことができるんじゃないかなと思います。

人生の積み重ねはどこかで必ず繋がる。焦らずじっくり学びを深めて

――いきなり高みを目指すのではなく、段階を踏んでいくことが大事ですね。

大人は人生経験が豊富なので、どんな分野も全く分からないということはないと思うの。それなりに長く生きてきてると、世の中のいろいろなことを浅く広く知っているんですよね。そうすると、「あぁ、これがあそこに繋がるのね!」とわかって、学ぶことが面白くなっていくの。「それを学んで何になるの?」と思うかもしれないけれど、大人だから別に何にもならなくてもいいの。自分の興味や好奇心が満たされるだけでもいいし、興味の対象がどんどん広がって人生が面白くなっていくんじゃないかなと思います。

――何にもならなくていい。だからこそ、純粋に学べるのかもしれませんね。

学び直しで大学や大学院に通う人も増えているけれど、学校に行かなくても、工夫次第で学び直しはできるんじゃないかしら。例えば「美容」に興味がある場合、スキンケアやメイクだけを追求するのではなくて、もっと広い範囲で「美学」というものを学ぶんでいくと、より深く美しさというものを捉えることができて、人生がより面白くなるんじゃないかなと思います。

――学問だけでなく、ピアノなどの趣味を楽しむ人も多いですよね。

自分が好きなこと、興味があることなら何でもいいんじゃないかなと思います。1つ扉を開けると、その向こうにまた新しい扉が現れて、それがどんどん繋がっていくのが、すごく楽しい。さらに、学びの成果を発表する機会があるとモチベーションが上がりますよね。YoutubeやSNSは知識をインプットする場であると同時に、アウトプットできる場でもあるので、そうしたものをうまく活用するのもいいかもしれませんね。

――学び直しをしたいけれど、忙しくてなかなか時間がないという人に何かアドバイスはありますか?

焦ることはないと思います。特に30代、40代は子育てや仕事で人生で一番忙しい時期。だからまずは目の前にあることを一生懸命やればいいと思うの。そこから50代、60代となって、時間的にも精神的にもゆとりが出てきた頃に学び直しをスタートするのがちょうどいいと思うし、実際にそういう人が多いようです。学びを途中で休んでもいいし、すきま時間で学びもたくさんあるので、型にはまる必要はないんじゃないかなと思います。人生の積み重ねはどこかで必ず繋がるものなので、焦らずに少しずつ段階を踏みながら、大人の学び直しを楽しんでいきたいですね。

Photo(portrait):Sachiko Horasawa Text:Sachiyo Kamata