言葉の美しさは、顔つきに表れる。

若葉の美しい時期。「こ(5)と(10)ば(8)」の語呂合わせから、5月18日は「ことばの日」に制定されています。藤原美智子が考える「言葉の美しさ」とは。

自分が発した言葉は、自分が一番聞いている

――5月18日は「ことばの日」。美智子さんは言葉について、どんなことを心がけていますか?

マザー・テレサの「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから」という名言を心に留めています。いつも考えてることは無意識に言葉に出るし、その言葉を一番聞いているのは自分なので、それが思考や顔つき、行動に表れてしまうといったことだと思うんですね。そのことに気がついた時に、自分自身のためにも使う言葉には気をつけなければなと思ったの。それと、ずいぶん前に読んだ本なのだけれど、ナポレオン・ヒルが書いた『思考は現実化する』という世界的なベストセラーにも、人は自分が思い描いたような人間になるということが書かれていて、私の中でマザーテレサの言葉とつながりましたね。

――自分が発した言葉は自分に返ってくる、と。

いつも考えていること、言葉に出していること、それが人の“顔つき”をつくる。このことは、私自身がヘアメイクとしていろいろな女性の顔に触れてきた中で実感してきたことでもあって。シェイクスピアが「ひとつの顔は神があたえてくださった。もうひとつの顔は自分で造るのだ」という名言を残しているけれど、本当にその通りだと思うの。30代前半くらいまでは持って生まれた顔つきの方がまさっているけれど、それ以降になると思考や生き方が顔つきに表れてくるものだなって。だから、表面上だけ美しい言葉を使っていても、いつも不平不満や人の悪口を言っていたり、家の中をグチャグチャにしていたりすると顔つきに表れてしまう。それはどれだけきれいにメイクしてもカバーできないものなの。

思考と言葉は近づけ、感情と言葉には間を空ける意識を

――表面上だけ取り繕っても見透かされてしまうんですね。

人には感じ取る力があるから、発する言葉とその人の内面にズレがあると違和感を感じてしまうんですよね。だから、内面と言葉が一致している人には信頼感を抱くし、言葉と顔つきが一致している人を魅力的だと感じるのではないかしら。美しい言葉を発したいのであれば美しい思考に変えるように努力しなければいけないし、自分の内面に忠実な言葉を選ばないといけない。常にそうすることは難しいけれど、美しくない言葉はなるべく表に出さないように心がけるだけでも変わると思います。

――家族への声がけといい、言葉に関しては反省することだらけです(苦笑)。

反射的に美しくない言葉を発してしまいそうなときは、一瞬、間を置くようにすると防げるんじゃないかしら。感情と言葉を一緒くたにしないことがポイント。思考と言葉はなるべく近づけた方がいいけれど、感情にはあまり重きを置かず、冷静になって言葉を発した方がいいんじゃないかなと思います。

―――美しい言葉を発するには、語彙力も必要ですよね。流行り言葉もありますが、なんでも「ヤバい」「エグい」という言葉で語られてしまうのは残念な気がします。

確かに、時代とともに言葉がカジュアル化・幼稚化していますよね。古典的な童話や小説などを読むと、昔は言葉がすごく丁寧だったなと感じるので、本を読んで言葉を磨いていく努力も必要かもしれませんね。経験を重ねた大人にはやっぱり深みのある言葉が似合うし、言葉だけじゃなく、思考も深める努力をすると丁寧な言葉につながるんじゃないかしら。

人をけなす・羨む言葉は使わず、いいところを見つけ

――美智子さんは、普段から使わないように心がけている言葉はありますか?

昔から使わないようにしようと決めているのは、「何さ」と「もう」の2つ。「何さ」は意地悪そうな顔つき、「もう」は不平不満がいっぱいで自信のない顔つきにつながってしまう気がするので使わないように心がけています。

――一方、積極的に使うようにしている言葉があれば教えてください。


人を褒める言葉かしら。人をけなしたり、羨んだりするのではなくて、人のいいところを見つけるように努力しています。これが意外と大変なのだけれど(苦笑)、いいところを見つけたら、トゲのある言葉も自然と使わなくなるんじゃないかしら。先人たちが言うように、どんな人でも意識すれば言葉は変わるし、思考は現実化するはず。「ことばの日」にちなんで、私も改めて美しい言葉と思考を心がけ、いい顔つきを作っていきたいなと思います。

Photo:Sachiko Horasawa Text:Sachiyo Kamata